[第4回] 佛山の印刷会社の話をしよう。

佛山の印刷会社の話をしよう。

昨年、印刷技術協会で「中国に頼んで良い印刷物は何なのか」のテーマで講演した。
その時も日本の印刷が成熟してしまって日本の印刷価格が下がり、品質リスクを考えれば中国で印刷をして日本に輸出する印刷物は少なくなってしまったという話だった。自分でも中国で印刷をして日本に輸出する仕事は無いかと思っていた。

そんな中で合紙段ボールケースとその中に入れるブリスターパックの見積もりが来て合紙段ボールケースの印刷は中国でも大丈夫だし、ブリスターパックも中国の得意分野だ。そして、何と言っても金型が安いと言うことで、ひょっとしてこの仕事は「中国に頼んで良い印刷物」ではないかという予感はあった。最初、中国深センに事務所がある新潟の印刷会社に見積もりを依頼し、見積もりを提出したが、中国生産ということと、価格的なメリットがあまりなかったようで保留になってしまっていた。しかし、発注ロットが半分になり内容も大幅変更で再度見積もってもらえないかといことで、どうしようかと思っていたところ、うってつけの会社があることを思い出したのだ。

 

12月22日(土)

関西空港から広州空港まで約4時間のフライトである。飛行機会社は中国南方航空で中国の飛行機会社では一番よく利用している飛行機会社だ。今回の飛行機代金は57,000円で燃料チャージ・空港使用料・保険などを入れると8万円弱になってしまうのだが、格安航空券を利用する場合は、中国の航空会社は一人からでもOKでも、日系の航空会社は2名からとなっている。今回も印刷立ち会いが急に決まった為、早割とかのインターネット予約が出来なかった。中国南方航空の旅券は大阪の中国系の旅行代理店で予約をしたが、JTBに聞いてみたら2名一緒に申し込むと、JALで1名分51,000円と言うことであった。1名のみの申し込みだと120,000円だという。何かおかしい。

私は出来れば日系の飛行機に乗りたいと常々思っている。しかし、現実は中国系の飛行機になってしまうのだ。機体・サービス・食事どれをとっても日系の航空会社が良いし、1名でもこの格安航空価格が利用できれば良いのにと恨めしく思う。価格維持のためかどうか知らないけど、空席で飛ばすよりは、格安の客でも1名で乗せればよいのにと思ってしまう。関空出発時刻が午後2時50分、時間どうり順調に搭乗したがなかなか出発しない、そのうち眠ってしまってどの辺かなと見回してみても、景色は変わらず関空であった。40分くらい寝てしまったようだ。約1時間遅れで出発したが、満席である。日本人の方が多いけど、胸にツアーのバッジを付けた年配の人たちが多い。桂林方面のツアーだろう。この路線に乗っている中国の人は広東語で話す人が多い。広東語のイントネーションは好きだ。これは、香港映画の恋愛ものをよく見ていた頃、愛を語る時の流れが標準語には無い心地良さがあると感じている。ただし、飛行機の中では大声でうるさいだけだ。

目的地の中国広州白雲空港は私にとってあまり良い印象はない。4年ほど前に手掛けた手帳の仕事は広東省東莞で製作し、失敗して会社を潰しかけた苦い経験があるからだ。印刷製本をしていた4ヶ月間で多いときには月に3回この空港に降り立っていたのだから。今回の仕事は広東省東莞ではなく佛山でするのだが、この地でするのには訳がある。

その1 今回の印刷会社の実質オーナーが日本人であるということ。
その2 最近の工場移転で菊全ローランド700・ローランドレコード4色機各1台が増強されたこと。
その3 上記2台の増強で、仕事の主体がパッケージに変わってきていたこと。
その4 自社ではプラスチック成型の仕事は出来ないが、近くに協力工場があること。
その5 日本の玩具メーカーの仕事をしていたこと。
その6 仕事の打ち合わせが、日本で出来ること。

おおよそ、このような理由である。ここのオーナーは日本から東南アジアに製版機器を輸出するのが本業である。私は吉林芸術学院動画学院にフィルムセッター・PS版焼付機・PS版自動現像機を印刷工学部設立のために寄贈しているが、その設置・調整をしていただいているのがこの会社だ。

私自身、手帳の印刷で失敗し、大連のデザイン会社で失敗した後の中国での新規の取り組みが吉林芸術学院動画学院での3D関係だったし、吉林芸術学院動画学院との関係を維持できているのも、日本から持ち込んだ製版関係の機器をまともに使用できるようにしていただいた事が大きいと思っている。広州空港の中国税関を通るときの不安が1つあった。

製版フィルムである。パッケージを分解し展開するとB2サイズほどになる。製版フィルムは折り畳んで持っていくわけに行かず、紙管に入れて持って行った。中国税関で手荷物検査を受ける事があって製版フィルムが見つかると、課税対象になったり、申告不備で没収になったりするケースがある。今回は滞在期間が限られているため、日本で準備できるものはして行こうと思っていたので、製版フィルムとデータCDを持参していた。

最悪製版フィルムは没収されてもデータCDがあれば良いと決めていたのだが、桂林ツアーの人達に紛れて通過し、事なきを得た。空港には日本人オーナーと中国人総経理が車で迎えに来てくれていて助かる。高速道路が完備していて、佛山までは約1時間だそうだ。その内に広州の地下鉄が空港まで延びるそうで、それが出来れば佛山に行くにも地下鉄を利用できる。佛山で遅い夕食をしてから、印刷工場で打合せをして、ホテルに送ってもらった。

 

12月23日(日)

朝ホテルに日本人オーナーと中国人総経理が迎えに来てくれて、飲茶の朝食を取る。食は広東にありと言われるが、おいしい。日曜日だが印刷工場は操業していて、見学と打合せを行う。私は佛山は2回目だが、以前の工場とは違う。

昨年の10月にこの新工場に引っ越して来たそうだが、以前の工場は裏の河川改修に引っかかって政府は有無を言わせず立ち退き要求。それも営業保証とかそのようなたぐいは無し。それを契機に以前印刷工場として使用していた今の工場を借りるようになったのだが、もの凄く広い。半分くらいしか利用していないが、家賃も大変なので半分は貸したいそうだ。

段ボール印刷予定は明日の朝からで、今日はPS版焼きまで。(印刷用のアルミ板に製版フィルムから焼き付ける)工場長からブリスターパックのサンプルが渡され、日本から訂正指示を出していた項目が改善されているかチェックする。ブリスターパックは立体物であるし、写真を撮って、訂正箇所をキチンと書いて日本から送っていても、こちらの意図は中々伝わらないようで、3ヶ所訂正をしてもらうよう頼んだ。

今回は来てチェックできたから良いようなもので、来られなかったら、いちいちサンプルを送ってもらうことになるかもしれない。新工場は3階立ての営業・管理・寮が有り、工場棟として、印刷棟、製本棟、製版棟になっている。各棟の間に屋根を付けることで、その間も工場として利用している。(写真A)
本来なら通路なわけで、冬寒くない南の地方だから出来る芸当である。広東省の違う印刷会社でもこのやり方は多かった。

工場建築費の削減なのか、税金面なのか良くわからない。会社の設備的には製版関係で大日本スクリーンのB1判フィルムセッターが2台、B1判CTP 現像機のみ1台。CTP露光部分は現在香港の税関にまだあるそうで、こちらに届くのが何時になるのかわからないそうだ。日本のCTPを保有している印刷会社の製版現場というと、殆ど人がいなくて薄暗いところでCTPの機械だけが動いていると言うのが現状だろうが、ここの工場の様子は以前の日本の製版現場状況で、人が活況を呈している。

B1判フィルムセッターがあってもフィルム支給だと、面付けの問題等で、クリアベースフィルムに貼り込まなければいけないし、植版機がないからこの様な場合はすべて人手になってしまう。4色カラーの場合、人の目でトンボをあわして4枚のフィルムを合わしていくのだが、人件費が安いからとかという問題ではなく、精度の問題があるので、中国の印刷会社もデータの流れをスムーズに出来れば、仕事のやり方も変わると思っている。

しかし、こんな事を言っていても、あっという間に社会構造が変わって仕事の流れも変わることによって今の日本の状況に成っているような気もする。私自身としては、この様に人が活況を呈していて、わぁーわぁー言いながら仕事をしている様は大好きなのだけれど。印刷機は菊全判ローランド700 4色機1台、菊全判ローランドレコード 4色機1台、菊半裁ハイデルベルグ 4色機1台、菊四裁浜田 4色機1台、菊四裁リョウビ 1色機1台製本機械は断裁機3台、三方断裁機1台、手動型抜き機2台、中国産折機3台、糸かがり機2台、ミュラーマルティニの無線綴じ機1台印刷機械と比べると製本機械に見劣りがするが、パッケージ会社からの印刷受注が多く、印刷したものをそのまま納品という仕事が多いと言うことで納得する。

菊全判4色印刷機にはオペレーターが4人、菊半裁4色・菊四裁4色印刷機にはオペレーターが各3人ついていた。日本だと2台の4色機にオペレータが3人と言うところもある。人件費について云々だけの比較論だけでなく社会構造の違いから来る様々な要素で、オペレーター人員の違いがあるように思える。日本の印刷関係者が中国の印刷会社を見て、単純に人件費が安いから印刷機に4人付けているのだと思いがちだが、中国の経営者だって、人は少ない方が良いわけだから、今の状況では4人が必要ということだ。24時間体制で120人の従業員がいる。

 

12月24日(月)

10時印刷スタートと言うことで、日本人オーナーがホテルまで迎えに来てくれて、近くの簡易食堂で朝食。歩道にテーブルと椅子が置いてある。豆乳、チマキ、腸粉(これが美味しい)で簡単に済まして工場へ。日本の豆乳はあまり飲んだことがなく、飲みにくいという印象しかないのであるが、中国の豆乳は私にとって美味しく飲みやすい。牛乳は中国の人はあまり飲まないらしく、その為もあるのか日本でミネラル加工牛乳というのが有ったがそんな味で、これも私は好きな味だ。

印刷工場では、菊全判ローランドレコード4色機の前に行くと刷り出しが始まっていて、機長と工場長が「以前のサンプルとここが違っているがこれで良いのか?」と言っている。よく見ると会社のロゴマークが違っていた。このロゴマークは発注先からもらったデータで作成したものだったし、まさか違ったものが渡されるとは思ってもいなかったので全くノーマークであった。ロゴマークが変わったと言うことも聞いてないし、日本の12月24日は天皇誕生日の振り替え休日であって得意先にも連絡が取れないし、どうしようと悩んだが印刷を止めてもらって、訂正をすることにした。幸いデータも持参しているし、そんなに難しい訂正でもないので、この会社に訂正をお願いして、それが出来ればこの会社の実力がその事一つででもわかるから無理を言ってしまった。工場長は良くある事だと言ってくれたが、後は色を合わすだけだったので印刷予定に穴を空けてしまった。

彼らに指摘されなければ、頭は特色の刷り色が日本で印刷していた見本色と合うかどうかだけだったので見落としていただろう。もし、このまま気がつかずに印刷を進めて日本で納品し、クレームが起これば、中国まで刷りだしの立ち会に行って、何をしていたの?となるところを助けてもらった。何か問題があっても、相談せずにそのまま進めてしまうのが、中国式。

この時点でこの会社の印刷に対する気の配り方は大変良いなぁー、大丈夫だなぁーと感じた。フィルムセッターが置いてあるところでロゴマークの訂正をすると言うことで、そちらに行って訂正の指示をし、その確認をした。アドビフォトショップで訂正し、イラストレーターに貼り付けて作業する方法は日本と変わりがなかった。私は明日の朝9時の飛行機で帰らなければいけない。

それまでにパッケージの刷りだし見本とブリスターパックの見本を持って帰らなければ来た意味がないので、何とか今日中の印刷をお願いしていたが、夜の10時から刷り出しと言うことで、日本に成果物を持って帰れる事になり有り難かった。私自身徹夜覚悟の上で、飛行機で寝ればいいやと思っていたのだ。印刷待ちの間に、工場長にプラスチック成型について尋ねる。 このブリスターパックの金型が安い理由が良くわからなかったからだ。

主なプラスチック成型法には射出成型 中空成形 射出中空成形 押出成型 圧縮成型 真空成型がありこのブリスターパックは真空成型だそうだ。外側と内側両方の金型をつくり、その隙間に樹脂を流し込んで固める射出成型を想像していたのだが、違っていた。金型にプラスチックシートを乗せ、その間の空気を吸い込むことで、シートを型に密着して成型する方法で、大量の時はアルミ型、少量の場合は木型、樹脂型などを使用するらしい。

話を聞いていても、今イチ理解が出来なかったので、工場見学をお願いしたが、忙しいらしく、かなわなかった。印刷開始の午後10時に印刷工場に行き、調度見当合わせが終わったところであった。機械は菊全判ローランド700で朝の菊全判ローランドレコードではなかった。出来ればローランド700で印刷して欲しかったので、不幸中の幸いだった。ローランドレコードという機種はあまり好きな印刷機ではないからだ。

間違っていたロゴマークの訂正を確認し、特色ブルーの色調を見てみるが、若干の違いがある。西武ライオンズカラーのようなブルーで構成色は原色藍、紅、黄あたりであろうが、少しでもどれかの色が多くても違う色に見えるややこしい色である。そして、表面保護にピニール貼りをするので、それによっても見える色調が違う。ピニール貼りをするとビニールの種類にもよるが、若干赤っぽくなる傾向がある。ある程度、色調を合わしたところで、ピニール貼りをしてくれるようだ。

近くにピニール貼りの工場があるようで、その結果を見てから本刷りに入ることにする。ここまで、気を遣ってくれると、中国の印刷工場と言うことを忘れてしまう。その間に、ブランケットを交換するという。(ブランケット胴 オフセット印刷機の胴のうちゴムブランケットを巻いた中間胴のことで、
版胴上の画像は一度このブランケット胴に転移され、さらに紙に再転移される。)画像のベタ部分にブランケットの傷があり交換するようだ。こういう場合、ブランケットに細工をして、何かと誤魔化したりするものだが、基本通りに対応してくれる。

程なく、ビニール貼りされた刷り見本が届き、色調を見てみるが、黄色が不足しているようで、機長と意見があったので、そのようにお願いして、本番の印刷に取りかかった。日本の玩具メーカーのトレーディングカードを印刷しているので、日本の印刷物の扱いは心得た感がある。最初の頃、玩具メーカーの担当者は濃度計を持ってきて、刷り色を指示していたそうだ。そこまでしなくてもと思うのだが、一般の人にとっては数値で表現する方法しかないのかもしれない。日本人の曖昧な表現方法では伝わらないのだから。ある程度印刷できたところで、会社の人達にお礼を言って、ホテルに戻った。

中国の印刷、とりわけ広東省の印刷会社には痛い目にあっているので、この対応の違いにとまどいを感じている。時間は午前1時前で、シャワーに入り荷物のパッキング。新たな印刷の可能性が見つかり、日本人オーナーには感謝で一杯だ。疲れているにもかかわらず興奮気味で寝付けなかった。

今日はクリスマスイブ。クリスマスは一般の人達には欧米の行事でしかないけれど、素敵なクリスマスプレゼントを貰った、佛山で。中国では日本向けの印刷は無理かなと思っていたが、認識を改める事になりそうだ。日本人が印刷工場のオーナーと言うことも随分影響しているし、中国印刷の一番得意な部分が、持ち込んだ仕事と合致したからだと思う。

今まで、この分野は諦めていただけに、自社の営業分野が広がるのだ。私どものような、印刷では特徴の無い会社には、中国というキーワードで生きていくしか無い。中国の強い部分。それは3D関係であったり、パッケージとブリスターパックの組み合わせだ。これも信頼できるパートナーが居てこそであるが、この方程式を今後も開発していきたいと思っている。

2008年1月

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